起業家としての挑戦と母としての日々の奮闘。 外資系企業でのキャリアを経て、出張シェフサービス「シェアダイン」を立ち上げた井出さんが、家族との時間や自身の時間をどのように確保し、バランスを取っているのか。 インタビュアーは、TBSテレビでアナウンサーとして活躍し、2021年に独立して「setten」を設立、さらに女性向けキャリア支援会社「NewMe」を共同創業した笹川さん。 女性として、母として、そして起業家としての両立に関するリアルな体験をお話しいただきました。
笹川 「はじめに、シェアダインさんの事業内容を簡単に教えていただけますか?」
井出 「シェアダインは、食を専門的に勉強してきた栄養士さんや調理師さんと、私のような一般家庭が出会える場を提供しています。 食のプロが、例えば本当に偏食で困っているといった悩みや相談に応じて、個別に食事を作ってくれるんです。 基本的には1回3時間の訪問で、10~12品目ほどの作り置きを提供していますが、日常だけでなく、パーティーでの利用や、飲食事業者向けに即戦力のシェフをマッチングする「スポットシェフ」の事業も展開しています。」
笹川 「プロが個別に作ってくれると聞くと、特別なシーンでの利用をイメージしてしまいますが、実際には日常生活でのご利用が多いのでしょうか?」
井出 「はい、シェアダインのご利用の90%超は普段の作り置きの利用なんです。 日常の食事に関する悩みには本当に幅広く対応しています。 例えば、子どもの好き嫌いで食べてくれない場合や、高血圧や糖尿病などの病気に配慮した食事が必要なケースもあります。 そうした悩みをお持ちの方には、病院での経験が豊富な管理栄養士を紹介し、適切なお料理を提供しています。」
笹川 「いつも同じ方にお願いするのも良いですが、子どもの成長や家庭の状況に応じて、相談する専門家を変えるのも良さそうですね。 タイミングに合わせて、適切なアドバイザーにサポートしてもらうという方法もありますね。」
井出 「本当にそのように使ってくださる方もいらっしゃいます。 最初は離乳食の相談から始まり、子どもが成長するにつれて、さまざまなシェフに相談するケースもよくあります。 状況に応じて適切な専門家に相談できるのが、シェアダインの良いところです。」
笹川 「家族の形やライフスタイルに応じてさまざまなシーンで利用できる素晴らしいサービスだと思いました。 井出さんはお二人の出産を経て、仕事との両立をされていると思いますが、シェアダインを起業するに至るきっかけは何だったのでしょうか?」
井出 「とにかく、出産後に復職してから一番困ったのが、日々のご飯を作りながら仕事をすることでした。 それが一番の悩みでした。特に大変だったのは、長男がとても偏食で、緑の野菜を全く食べなかったり、なぜかひき肉料理も、子供が好きなはずのハンバーグさえ食べなかったりしました。 長男は非常にこだわりが強く、何をどう工夫しても食べてくれなくて、自分一人ではどうしたらいいのか本当に分からなかったんです。 おそらく第一子だったこともあって、余計に心配してしまっていました。 この子が栄養のことも含めて全然食を知らないまま育ってしまうのではないかと、とても不安でした。 二人目だったら、そこまで気にしなかったかもしれませんが…こうした長男の偏食が起業のきっかけとなりました。」
笹川 「母親としては、子どもが思うように食べてくれないと本当に心配になりますよね。 お二人目が生まれてからはさらに状況が変わりましたか?」
井出 「そうですね、物理的にかなり大変でした。 まず、上の子が遠い保育園にしか入れなかったので、電車で送り迎えをしながら出社して、また電車で帰ってくるという日々でした。 朝は主人にお願いすることもありましたし、さらに二人目が生まれたときには別々の保育園に通うことになり、二か所でのお迎えが必要になりました。 このため、夕方には「これをしなきゃ」というマインドシェアがかなり取られてしまいました。 そのせいで、自分が本当はもっと仕事に集中できるかもしれないというようなキャリアについての葛藤や苦労がありました。 やりたいことがあっても、今はできないことが多く、自分はここまでだなぁと思ってしまうこともありました。」
笹川 「育児と仕事のバランスがうまく取れない時期があったんですね。 そんな大変な中で、お子さんとの時間を確保するために、どのような工夫をされたのでしょうか? 個人的にもお聞きしたいです。」
井出 「小さい頃はルールを決めていました。 たとえば、17時半や18時にパソコンを閉じたら、21時までは再び開かないようにしていました。 スマホも同様で、気になるとつい見てしまうのですが、一定の年齢のときはできるだけデジタルから離れるようにしていましたね。 その時間を、子どもと食事をしたり、お風呂に入ったり、本を読んだりすることに使っていました。」
笹川 「子どもが「見て、ママ見て」と言っても、携帯から目が離せないとき、子どもがすごく悲しそうな顔をしているのを見ると、我に返ることがありますよね。 そういった経験から、きちんと自分でボーダーラインを引くことが大切だと私も感じています。 特に一人目のときは、自分の手で何でもやりたいという気持ちが強いものですが、周りに頼ったり、様々なサービスを上手に活用することが、子どもや自分自身の幸せに繋がると思います。 私も2人目を育てる中で、その重要性を実感し始めていますが、井出さんはいかがでしょうか?」
井出 「最初は子どもの偏食がきっかけで、シェアダインのサービスを構想したときに、保育園で調理師経験がある方にお試しで食事を作ってもらったんです。 その結果、子どもの食べっぷりが全然違って、私は本当に目から鱗でした。 プロに任せることで、子どもも喜び、悩みも解消されるということを実感したんですね。 例えば、そのシェフが作ってくれた「そら豆と菜の花としらす」の料理を見て、「これ何?食べてみる!」と言い出したり、普段はあまり出さなかった緑の野菜も挑戦してみるようになったのは驚きでした。 長男からすると好きなしらすが入っている食べ物に興味が湧いたのかもしれません。それでも苦味を感じる菜の花でさえ美味しそうに食べている姿にはびっくりしました。この体験がきっかけで、ビジネスを始める決意を固めたんです。やっぱり、任せられるところは任せるべきだと強く感じました。毎日でなくても構わないので、任せられるときは積極的に頼ることで、みんながハッピーになるんだなと思います。子どもも私も幸せになれるんです。」
笹川 「まさにその通りです!親が「この子はこうだから」と思い込んで、無意識に制限をかけてしまうことはよくあります。 「緑の野菜は食べないから」といった理由で、あまり出さないようにしてしまうことも。 でも、家では全く食べない野菜を、「今日はブロッコリーもちゃんと食べてました」って保育園の先生から聞くと、「え?!家では絶対に食べないのに!」と驚くこともあります。 プロの料理は、家では味わえない特別な工夫やバリエーションがあって、それを家でも簡単に取り入れられるのは本当に便利でありがたいことです。」
井出 「親が思い込んでいることも多いですが、外部のプロの力を借りることで、子どもが新しいことに挑戦するきっかけを作ることができる。 そういう新しい体験や発見が、家族全体にとっても良い影響を与えると感じました。 外部のサポートをうまく活用することで、自分では気づかなかった新たな可能性を発見できるのはとても嬉しいことでした。」
笹川 「お子様からすると、プロが作った食事の見た目や盛り付けが新鮮で、食べることへの抵抗感が減ったのかもしれませんね。 また、自炊の負担が軽減されることで、食事の質や家族との時間をより楽しめるようになったり、料理に対するモチベーションが上がったりすることがありますが、シェアダインを利用することで自炊への取り組み方に変化があったという声はありますか?」
井出 「自分のよく買う食材と家にある調味料だけで作っているのに、全然違う味や組み合わせの料理が提供されるんです。 利用者の中には「これどうやって作ったんですか?」とか、チャットでレシピや作り方を尋ねたり、食材の組み合わせについて聞いたりするケースもあります。 私もいくつかのレシピを教えてもらって、自分でも簡単に作れるようになりました。 例えば、きゅうりとみょうがの和え物とか。 こうしたレシピは、自分の料理のレパートリーを増やしてくれるし、家でも手軽に美味しい料理を作れるようになっています。 こうして新しい料理のアイデアが生まれることも多いと思いますね。」
笹川 「その場限りで終わるのではなく、家庭でも再現できるようにサポートしてもらえて、自分でも挑戦する楽しさが増えるのはとても素敵ですね! 惣菜も便利ですごく助かりますが、時には「今日は温かい手作りの料理が食べたい!」という気持ちもありますよね。 プロのシェフといっても、それぞれその人の得意料理や個性が見えるので、頼むときにワクワク感がありそうです。 顔が見えることで、どんな料理を作ってもらえるのか楽しみだし、気持ちも豊かになりますね。」
井出 「そうなんです。一方で、誰かに頼ることや家に来てもらうのにはまだまだハードルが高いと思います。 そのハードルを下げるためには、料理を担当する人がどんな人なのか、どんな思いで料理をしているのかを知ることが重要です。 例えば、そのシェフの得意料理やどのような経歴があるのかをわかるようにすることで、頼む際の不安を軽減できます。 最近では、シェフのレシピや得意料理を紹介するようにしていて、それを見たお客様が「これを食べてみたいからこのシェフにお願いしよう」と思えるようにしています。 こうした情報を提供することで、料理の選択や依頼のきっかけが生まれるように工夫しています。」
笹川 「お料理が好きでご自身で作られるという方にとっても、「こういう作り方があるんだ」って学びを得る機会にもなりそうですね。 また、シェアダインを利用する際、どのような状況で呼んでいるのかをお伺いしたいです。 例えば、出社して自分が家にいない時にお願いするのか、それともお子さんの勉強を見ている時間に来てもらうのか、どのようなタイミングでサービスを利用されているのでしょうか。」
井出 「私は、現在リモートワークをしている火曜や水曜の午前中にシェアダインを利用しています。 その間、子供は家にいないので、私が仕事をしている間に作り置きが完成しています。 ただ、午前中の予定が合わない時は午後に来ていただくこともあります。その場合、子供が帰ってくる時間と重なることがありますね。 子供はキッチンに来て、「今日はどんな料理を作ってくれてるんだろう?」と興味津々で覗いたり、出来上がる料理をちょっとつまみ食いしたりしています。 その間、私は別の部屋でリモートワークをしていることが多いです。 在宅勤務の時間を活用して、シェアダインをうまく取り入れている形ですね。」
笹川 「シェフが来ているときって、基本的には家にいらっしゃるんですか?」
井出 「私はシェフが来るときは、基本的には家にいるようにしています。 ご利用されるお客様にも最初と最後の部分はできるだけ見てもらいたいと思っていて、特に初回は必ずいていただくようお願いしているんです。 なぜなら、家庭によってスポンジの使い分けやまな板の使い方、ゴミの分別など、台所のルールが全然違うからです。 シェアダインでは、ヒアリングシートというのを用意していて、これに沿って必要なことを確認してもらうようにしています。 こうすることでトラブルを防ぐことができるんですね。 シェフには「これから3時間、台所をお預かりします」という感じでスタートしてもらいます。 以前は、最初にどんな料理を作っていただくのかシェフと打ち合わせをして、あとは出社していたことがありました。 出来上がった料理は冷蔵庫に入れてもらい、その後、チャットで写真を送ってもらう形です。 鍵のボックスを作っておいて、シェフには鍵をかけたらここに入れてくださいとお願いをしていました。 出社中に料理が出来上がっている、という使い方もしていました。 初めてシェフに来ていただく場合は、最初にルールを確認し、現場でお互いの確認をした方が良いです。 お互いに信頼できれば、次回からは家にいなくても大丈夫ですが、最初は家にいる方が多いかもしれません。 ただ、信頼できる方なら、次回からは家にいないでお任せすることも多いようですね。」
笹川
「シェアダインを取り入れてから、井出さんの家庭での食事スタイルは現状どのようにされているか、具体的に教えていただけますか?
自炊、中食(なかしょく。お弁当や惣菜などを購入したり、外食店のデリバリーなどを利用して、家庭で食べる形態の食事をさします。)、外食の割合など、日々の食事の取り入れ方や選択肢についての情報を伺いたいです。」
井出 「私の家では、シェアダインを隔週で利用していますので、平日の半分はシェアダインで作ってもらった料理を食べています。 それ以外の週は、自分で簡単な料理を作る感じですね。 つまり、平日はほとんど自炊かシェアダインというスタイルで食事をしています。 もちろん、週末やちょっと早く終われた平日でも外食行こうかとなることもあります。」
笹川 「保育園や幼稚園が終わった後に「今日、何が食べたい?」と聞くと、子供たちは「今日は外でうどんが食べたい」と言ったりしますよね。 子供はその時の気分で食べたいものが変わるので、忙しいときも全てに合わせるのは難しいですが、そうした子供の希望を時々尊重してあげられるのは、理想的だと思います。」
笹川 「また、お仕事と育児の合間で食材を買うのは時間が取りづらくて大変ですよね。 井出さんはどのように食材の買い出しをされてますか?」
井出 「タイミングとしてはシェアダインの方に来てもらう前日か、2日前にスーパーで買い物を済ませるようにしています。 特に最近は夏で暑くて重い荷物を運ぶのが大変なので、量を多めに買うことが多いですね。 通常、日曜日にまとめて買い物をして、その分をシェアダインの方に作ってもらっています。 でも、重い荷物を運ぶのは大変なので、夫に頼っています。」
笹川 「私も今、2人目が生まれて、下の子がまだ6ヶ月ということもあり、抱っこひもでお姉ちゃんを連れてスーパーに行くのが本当に大変です。 元々は、自分でスーパーに行って、レタスの鮮度などを直接確認するのが好きでしたが、今はそれが難しくなってきました。日々暑さが厳しくなる中で、スーパーの買い物はしんどいと感じるようになり、最近ではついにネットスーパーを利用することにしました。 特に「OniGO」などの20分で届けてくれるサービスを使い始めたところ、便利さに驚きました。 以前は自分で食材を選びたいという思いが強かったのですが、「なぜもっと早く利用しなかったんだろう」と思うほど、今では便利さが勝っています(笑)。 家庭のフェーズや状況に応じて、どのサービスが自分に合っているかを見つけることが大切ですよね。 私もそうしたサービスを取り入れたことで、よりスムーズに日々の生活が回るようになり、便利さを実感しています。」
井出 「私は上の子の勉強を見るために、家にいる必要がある時間帯があります。 しかし、休日のお昼ご飯を作ろうと思ったときに、材料が足りないことがよくあります。 その場合、アプリを使ってちょっとした食材を注文しています。 例えば、必要な食材やアイスをアプリでサクッと注文し、届けてもらうことができます。 家にいながらも手軽に必要なものを手に入れることができて、とても便利に感じてます。」
笹川 「私も似たような状況で使っています(笑)。 例えば、疲れ果ててしまって食材も買わなければならないと思いながらも、もうどうしようもなくてとりあえず家に帰ってしまったときに、届けてくれるサービスが本当に救世主のように感じます。 困ったときに使う人もいれば、常に曜日を決めて使う人もいると思いますが、自分の生活にこうしたサービスを取り入れておくことで、いざというときに助けられることが多いですよね。 シェアダイン、ネットスーパー以外に何か使われているサービスはありますか?」
井出 「お掃除サービスを最近になって使い始めたら、家がこんなにスッキリするんだって驚きました。 ちょっと汚れてるとやっぱり気になっていたのに、なんで今まで使わなかったんだろうって思いましたね。 お掃除サービスを利用したことで、どんどん頼れるところは頼って、自分がより集中できることに時間を使うのが、家族みんなにとってもいいんだなって感じています。 逆に質問なんですが(笑)笹川さんは日々、どのように生活を回していらっしゃるのでしょうか?」
笹川 「回ってはいないかもしれませんが(笑)。夫について、1人目のときは特にお母さん以上に夫がどう子供に接していいか分からないことが多かったんじゃないかと思いました。 最初は『これ手伝ってもらっていい?』ってお願いする感じだったんですけど、2人目が生まれてからは、夫も上の子が成長していく様子を見ているので、今ではお願いしなくても自分から送り迎えをしてくれたりするようになりました。 また、手が回らないのを見て『この人大変そうだな』と、自分ごととして考えてくれるようになったんです。 そうして、自然と協力体制が整って、二人で子育てしているなと感じるようになったかもしれません。 周りに頼ることってなんとなく気が引けてしまいますが、パートナーはもちろん家事代行サービスの利用ももっと積極的に使えるようになるといいですよね。 外部サービスを利用するにはお金がかかるけど、その大切なお金をどう使うかって考えたとき、サービスを利用しないことで節約もできますが、一方でその価値を得るための対価としては十分とも考えられます。 お掃除サービスもそうかもしれないけど、ちょっと視点を変えてみると、結果的に自分も子供ももっとハッピーになれるんじゃないかなって感じています。 最後に、このインタビューを見てくれている方も共働きしながら子育てされているという方がいらっしゃると思うんですけど、何かアドバイスってありますか?」
井出 「アドバイスというのはないんですが、疲れていると、つい惣菜をたくさん買ってしまうことってあると思いますが、その金額と料理を作ってもらう金額って、実はそんなに大きく差がないかもしれないんですよね。 だから、もちろん惣菜を買う日もあっていいと思うし、月に一度「今週はこれで大丈夫!」ってお守りみたいに出張シェフサービスを利用するのも、精神的にすごくいいかもしれません。 また、繰り返しになりますが、親が食べないと思い込んでいるものも、シェフが工夫してくれることで新しい発見があるんです。 そういうことをもっと広めて、多くの人に利用してもらえたらいいなと思います。」
2013年にTBSテレビに総合職で入社し制作ADを経験。人事異動でアナウンサーに。8年間在籍し独立。2023年NewMe株式会社を共同創業。意思ある女性のためのハイレイヤー向け転職サービスやキャリアイベントなど、女性特化型のキャリア支援事業を展開。ラジオパーソナリティ、女性専用サウナ表参道SaunaTherapyの経営、ファッション誌VERYでの活動など。2児の母。
2000年に新卒でゴールドマン・サックス証券に入社し、9年にわたり株式アナリストとして働く。2009年にアライアンス・バーンスタインに転職するも、2012年にチーム解散を経験。ボストンコンサルティンググループを経て、2017年、当時の同僚であった飯田陽狩さんとともに株式会社シェアダインを創業。2児の母。